2003年11月14日

(別館から)
熱を受けないように火を燃やすって、なんだかすごいと思わない?

燃焼室の中での火の燃え方は一度に全体が燃えるんじゃないんだ。プラグから徐々に火が広がって行くんだ、その燃え広がり方を工夫するとパワーもあがるし、熱対策も出来るよ。

高回転にしたいエンジンやエコなエンジンや燃焼室が大きなビックボアなエンジンでも使われている手法だよ。燃え方を制御するのには、燃焼室の形が問題になるんだ。

エンジンの燃焼室の形って大雑把にいって、バスタブ型、半球型、ペントルーフ型って進化してきたんだけど、バルブを大きく取ることを優先したのがバスタブ型で、バルブの大きさを広げるためにバルブもかなり横に倒れているんだよね。それにあわせて、圧縮率を確保するためにピストンが盛り上がっているんだ。燃焼室の断面は、三日月型になってるよ。

その後に登場した半球型は、ピストンの表面がほぼ平らになって、燃焼室を一番コンパクトにすることに主眼をおいたんだ。いろんな形のうち、同じ体積だと、球形が一番狭い表面積に作れるんだ。それを半分に切ったのが半球型だよ。シリンダヘッド側が球状にくぼんでいるのが特徴だよ。燃焼室の断面はちょっとつぶれた半月がただね。ボアに対するバルブの大きさはちょっと小さくなるよ。

4バルブのエンジンが登場した時に主流になったのがペントルーフ型なんだ。大排気量でハイパワーなビックボアなエンジンが増えてきて、火が短時間で燃え切らないことが問題になってきたんだ。パワーを上げるために高回転にしたいのに、ピストンが下がるまでの間に燃え終わんないことに対処するために、巣きっシュエリアが設けられ、ボアよりちょっと小さ目の燃焼室を持ってるんだ。断面は3角形になってるんだけど、バルブがだいぶ立っていることが多く、ピストン側がくぼんでいることもあるよ。
コンパクトな燃焼室で効率よくパワーを出すための工夫がスキッシュエリアの確保なんだね。

スキッシュエリアってなんだろう?

ピストンが一番上に上がった時に、その上面の周囲とヘッドの下面との間にほとんどくっつきそうな透き間にしちゃって、その部分の混合気を真ん中に向かって寄せて行くことで、火が真ん中で燃えて行くようにしているんだ。

中心部分だけ部分的に圧縮率が上がって火が早く燃えるようになるんだ。早く燃えるって事は点火のタイミングを適切に調整すれば、少ないむだでパワーが取り出せるから、燃費もよくなるしパワーも上がるってことだよ。ついでに、火が早く燃えるから、高い回転数でもパワーを失わなくなるよ。

真ん中に混合気を寄せ集めることで、大きすぎるボアの為に混合気が燃え残ることの解決策になるんだ。燃え終わるのを待つために高回転を犠牲にしたり、なるべく長い時間膨張する火からエネルギーを受け取るためにストロークを長くしたりしなくて良くなるんだ。

えっと熱対策のために何の役に立つんだろうね。2つポイントがあるよ。

一つ目は、無駄な燃焼が減るから、火で発生する熱全体では、量を減らせるんだよ。

もう一つは、真ん中に濃い混合気が集まることで、まんべんなく燃焼室に混合気が充満するんじゃなく、真ん中に濃い混合気が集まることになるから、燃えた時に中心はより熱く、ヘッドの下面やピストンの上面はより涼しく(って言っても熱いけどね)なるんだよ。壁から離れて火が燃えることになるからね。おまけに燃えてる最中に壁で冷やされることもなくなるから、より火が早く燃えるようになるよ。パワーを上げられるって事だね。

この形状は高回転を大事にするレース用のエンジンでも、少ない混合気から確実にパワーを取り出したいエコなエンジンでも使われてるよ。まあ、あんまりボアが小さいエンジンだと使わないけどね。

後からスキッシュエリアを作るのはちょっと大変なんだけど、シリンダヘッドの下面を面研して、燃焼室を浅くしたり、燃焼室に溶接でアルミを肉盛りして燃焼室をけずり直したりすれば作れるよ。バルブが衝突しちゃったり、カムの角度がずれたり、ヘッドがゆがんだりするから、いろんなところを調整しないと行けないんだ。圧縮比も変わっちゃうから、ガスケットの厚さやピストンの上面の細工などで工夫してね。

そうそう、形を決めるときには、プラグに混合気が集まるように考えてね。せっかく集めた混合気とプラグが遠いと、火がゆっくりしか燃えなくなっちゃうからね。

いろいろと考えていくと、すごく深い部分だけど、とりあえずこの辺でおしまい。
次は、「2.熱くなりすぎないように冷やすこと」について考えるよ

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